006 万感描写

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五輪に伴う4連休。ありがたいことに私の定職も4、いや3.5連休。私としては自分ノルマの40枚の遅延を、なんとかこの連休で取り戻したいところ。

にしても、暑い。五輪選手は大丈夫だろうか。

窓を開けて書く。無風。暑い。

暑い! 暑い!! 暑い!!!だが、これでいい。

これは描写チャンスだ。

例えば暑いシーンを読んでる人が、いかにその暑さを感じてくれるか。描写には五感が必要だと言う。うーん、感じろ。この暑さを味わい尽くすんだ。

アントン・チェホフは作品の中で面白いことを言っていた。実は人間には100の知覚があって、生きている内はその95を忘れているのだ、とかなんとか。そんなことを作中人物に語らせていた。なんの作品だったか。ちょっと、もう暑いから、原典はあたらない。悪いけど、探してくれ。

私もそう思う。いやもしかすると100どころじゃきかないのかも知れない。宇宙の広大さや、身体を構成する細胞の数や、アイドルグループのメンバーの人数が我々の理解を超えるように。

だから描写も、なるたけ現地を踏み、五感を超えて感じ、それをそのまま筆に乗っけて、書けないものまで描かなきゃね。なんてことを考える、夏。

図書新聞 第3504号 7/17の文芸時評(第77回)に取り上げて頂きました。

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「カメオ」を文芸時評で取り上げて頂きました。実はちゃんと発売日(7/9)に買っていたんだが、ちょっと忘れていた‥‥‥。

コンビニのコピー機でプリント購入できます。

幼い頃、実家の近所に鉄道好きのお兄ちゃんがいた。当時は「鉄ちゃん」なんて言葉もなかったが、お兄ちゃんは紛れもなく「鉄ちゃん」だった。私もそのお兄ちゃんの薫陶を受け、Nゲージなる精巧な鉄道模型に手を出したこともあった。

ある時、お兄ちゃんが、それは珍しいヨーロッパの列車が、JR神戸線を西から東に走るので、一緒に観に行こうと声を掛けてくれた。日が暮れかかる頃、私はお兄ちゃんについて自転車に跨り、夙川沿いの道を下って、川と線路が交叉する線路際のフェンスの外に待機した。インターネットなどない当時、どうやってそんな情報を得たのだろうか。やはりそこには数人の「鉄ちゃん」がカメラを構え、待機しているのだった。

やがて日が落ちてあたりが暗くなると、あッ! という誰かの声を合図にフラッシュが焚かれ、闇の中に轟音を響かせて、黄金のモールを配した殆ど黒に近いモスグリーンの車体が眼前を走り去った。それは一瞬のことだった。

一体なんの話をしているんだ、お前は。つまり図書新聞の文芸時評で拙作「カメオ」を取り上げて頂いたが、それはまさに、読んでいて、瞬きするような一瞬。閃光が走るように僅かだったのだ。

いや、しかし、ありがたい。あの日と一緒だ。異国の意匠を凝らされた典雅な車体は、あの日、多くの「鉄ちゃん」とともに、三蔵少年の瞳にも煌びやかに映ったのだ。未だ忘れえぬ鮮烈な印象を残して。

カメオ評は僅かであったが、限られた紙面である。「ユーモアを貫徹させた」と評して頂いた。そうして「カメオ」もまた、私の前から駆け抜けて行くのだった。

007 PARKER IM black GT M

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友人の医師から賞のお祝いに頂いた。医師なんて聞くと、スマートな紳士だと思うだろうが、女医だ。

米倉涼子似の女医だ。もちろん自称だ。

彼女がそれを自称し始めたのは、米倉涼子がまだ、あの「私、失敗しないので」を演る前だから、彼女の方が元祖なわけだ。

となると、もしかするとドクターXのモデルは彼女かも知れない。あのドラマの脚本家かプロデューサーかわからないが、何かのキッカケで、病院で彼女を見かけて……。そんなことも、あながち無いとは言い切れない。

で、この万年筆。軸がステンレススチールでしっかり重みがあって私好み。がっしりと太いペン先から想像できなかったが、滑らか。

すっかりお昼間の定職の方でも、執筆でも使わせていただいている。

いや、それよりも。

で、本当に米倉涼子似か?

というもはやこの道具函のテーマを忘れて膨れ上がっている皆さんの疑問については、以下の事実をいくつか並べ、その回答とさせていただき、この文章を終わりにしよう。

彼女の旦那はかなり男前。まだ赤ん坊の娘はかなりかわいい。

そして私は、彼女のアバンチュールに材を取った、所謂、「悪女もの」の中篇小説を一本書いたことがある。(これももちろん未発表)

ちなみに元祖ドクターXは、恋の方ではいろいろと失敗もあったようだ。

『文學界』8月号の新人小説月評に「カメオ」を取り上げて頂きました。

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画像はAmazonさんから

例によって著作権とかあるから全文は載せられないので、皆さん買ってください。誠に不本意ながら一部分だけ抜粋します。(良いとこ取りします)

“通り雨、交わす言葉、犬を抱えて駆け上がる階段の足音まで聞こえてきそうな聴覚効果が目と耳に楽しく、犬も人も覗き穴も草原も、描写されるものの輪郭が鮮やかに盛り上がる。楽しい”(鳥澤氏)

“カメオという名前の犬がなんかよくわかんないけどデカくなっていくところの妙〜なキモさは秀逸”(綾門氏)

別に意味は無かったんだけど、はじめて「高見順」に気づいて貰えて嬉しかったです。鳥澤さん。※あれは石川淳と混ぜたんです。

005 感想と批評(群像7月号まとめ御礼)

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Amazonで来月8月号、各文芸誌の情報が出始めた。そろそろ次月号にバトンを渡す頃合いだろう。ということで、このあたりでまとめ。

デビュー作掲載にあたっては担当編集者、編集部、校閲部、たぶん他にもいろいろあるんだろうけど、まず改めて御礼を述べたい。本当にありがとうございました。

掲載するまでの中で感じたのは、チーム。例えば私がピッチャーをさせて頂いて、皆さんが守備。担当編集者はキャッチャーかな? (私が投げた甘い球がカコーンと打たれたようなミスも、校閲の方がしっかりと捕球してくれて、ドンマイなんて親指を立てているの様子がゲラを通してみえた)或いは私がボクサーで皆さんはセコンド。F1のピットイン。そんな手厚さも感じた。

そんなサポートの中から作品の扉絵が出て、あれほど素晴らしく作品を引き立ててくれる扉絵を私は見たことがなかった。事実、あれに何人かの方は反応されており、実際にちょっと読んでみようとなった筈だ。

「カメオ」掲載の群像7月号が発売されてから一ヶ月弱。周辺や、SNSやネットなど数多くの感想を頂いた。感謝、大感謝。

三蔵エゴサーチ之図

まずは「面白い」と言って頂けるのは、嬉しいと言うよりは、ホッとする。貴重な時間を割いて読んで頂くのだから、とにかく純文もオモロくなければ、なんてことを私は思う。

感想というのはありがたいし、そしてまた読んでいてとても愉しい。

改めて思うのは、批評(感想も含め)はやはりクリエイティブなものだということ。そこには読む人の個性がすごく出る。感想を比較すると、その人の人となりが見えるようだ。

文学は文章芸術でなく、想像芸術なので、その実体が顕れ、完成するのは、紙の上でなく、読み手の頭ン中。そしてそれは無限に広がる世界だ。

著者の意図を超え、考察の底を破って更に掘り、鉱脈を探りあてる。言葉の中にシグナルを光らせて繋ぎ、新たな座標を元に地図を、あるいは星座を描いて、その物語までも–−。そんな解釈や批評を読んでいて、参りましたー、なんて思うこともしばしば。

「カメオ」に、他者との距離感に注目する人や、移っていく名前を「憑依」と見て怖さを発見する人。胸くそ悪さ。自分勝手な要求にムカつきを感じる人。不条理。人間のエゴ。愛おしさ。繋がり。疾走感。人間の地図の外。言葉と言葉の間隙。カタルシス‥‥‥。

読んで頂いた方の見た、オリジナルの世界。その拡がりの豊かさに感動した。ほんとありがたい。

それから文芸時評。

6/30の読売新聞の朝刊「文芸月評」に取り上げて頂いた。

新聞記事だけど、やっぱり著作権の関係があるようで、載せられないのが残念。転載の利用申請ってのがあったが、これがメンドイ。メンドイし何かお金がかかりそうなので諦めた。すまん。

くっそー、何とか雰囲気だけでもみんなに伝えられへんやろか、と身をふるわせて呻吟しておったら、ちょうど良い感じのが撮れたので載せておく。

「和解」というキーワード。また「クライマックスのすがすがしさに、不器用に生きる人間を肯定したくなった」という締めくくりで、ありがたい評だった。

因みにラストに関しては私に聞こえてくる範囲では肯定的なのだが……。

感想をTwitterなどでお寄せ下さった皆様ありがとうございました。「カメオ」掲載の群像7月号は、書棚を8月号に譲りますが、また今後、「カメオ」を読んでTwitterなどで感想頂けたらとても嬉しいです。

(2021.0710追記)ダミアンさんがnoteで『カメオ』について書いてくれました。嬉泣。

004 タイトル詐欺(カメオ)

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「19世紀後期、イタリアで作られたというそれは、幾度も欧州の騒乱や戦禍をくぐり抜け、そしてサルドニア貝を削り出した乳白色の貴婦人の横顔は、東京を焼いたあの炎も赤々と映し出したのかも知れない。祖母から母、そしてわたしへと受け継がれてきたカメオ。けれど、今、わたしはそれを手放そうとしている––––」    (『cameo』本文より)

cameoってこんな感じか?

‥‥‥

なんて話じゃなくて、スマンな。残念、「亀夫」でした。

『カメオ』の「カメオ」は鼻毛とか出てる系の関西のオッサンの名前です。

もちろん記事の冒頭の文章は冗談だけど、    「カメオ」ってブローチとかの装飾品のことかと思ったわ! なんて感想を頂くことが私のまわりやTwitterでもいくつかあって、皆さんお洒落ですねぇ、なんて思いながら、勝手にお応えして書いた‥‥‥。

そもそも私は書いている時、カメオブローチんて名称も知らなかった。––––無知ですいません。あと、映画とかでカメオ出演てのもあるんですね。

Twitter等でいろいろご感想を頂いております。みなさん、本当にありがとうございます。今回は頂いた感想のアンサー記事でした。

003 「下世話な話」のつづき

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歴史ある五大文芸誌の新人賞受賞の言葉で、過去これまで、賞金、つまり賤しくも(下世話な)カネの話をした例があっただろうか? たまに、そのあたりに妙に詳しい人もいたりするが、私は知らない。

半世紀以上続く純文学の賞だ、やはりそこは高踏的なカッコいい言葉で、バシッと決めるべきだったんだろうけれど、私としては一番の功のあった飼犬に触れないわけにはいかなかった。

もしかすると受賞の言葉は、「群像」の公式HPにそのうちあがるかも知れないが、勝手に転載するわけには行かないので、読んでない人はバックナンバー(2021年6月号)でチェックして欲しい。※編集部の許可をとって「掲載・出版」から読めるようになった(2023年4月)

とは言うものの、なかなかそうもいかないだろうから、カンタンに内容を説明すると、私は受賞の言葉で、「下世話な話だが」と、いくらか貰える賞金で、本作のネタ元の飼い犬に(取り分として)高級スーパーでササミ肉を買ってやると宣言したわけだ。

「とかなんとか言ってもどうせ口だけで、結局は犬の取り分もガメてんだろ?」なんて疑惑を封じる為に、今回は件のササミ肉レポをする。

成城石井? いやいや、関西で高級スーパーと言えば、イカリスーパーだ。関西圏以外の人には馴染みがないだろうから分かりやすく言えば、コープには「コープさん」なんて親しみを込めて「さん」づけをするが、イカリスーパーとくると、「さん」づけでは済まされない。まぁ、つけるなら、イカリ様だ。

最近(2021.6)ネットで話題になった「よく使う関西のスーパーマーケットを分類してみた(改)」でも、やはり頂点に君臨するのは「ikari」だ。「富裕層御用達」の更に上、「特権階級」と書いてある。

イカリ様。写ってないが、巨大なホンモノ?の錨が店の前に据えてある。

最近はスーパーでお買い物をしても、袋をくれなくなって、お金を払って買って、もちろん自分で袋詰めをしなければならないが‥‥‥。そこにくるとイカリ様は違う。

袋もくれるし、必ずでは無いが大抵、レジ担当の人とはまた別の人が、買った商品を袋に詰めてくれる。

約束の、桃色にツヤツヤ光るササミ肉だ。

俺は。ボイルす。る。

ボイル。ハードに。ハードボイルドだ。

食えよ。思う存分。お前の取り分だ。

さすが高級(店の)肉。

脇目も振らずに食らいつく。

おい、うまいか? おい! どうだ?

「何だよ!うるせェーな!」とばかりに一度は振り向いたが、肉にガッツく彼が二度と此方の呼びかけに、振り向くことはなかった。

006 Clanpy penco クリップ

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クランピーのペンコなのか、ペンコのクランピーなのかは、ちょっとよく分からない。

ネタが尽きた訳ではない。私の道具函の中にはまだまだいろいろある。

これはPC推敲に必須の道具。

印刷した原稿に赤を入れ、その修正をまたPCで打ち込んで行く際、このクリップで原稿をPCのベゼルに固定する。

こんな感じ。

書見台でもいいけれど、もちろんクリップの方がお手軽で、且つ原稿とPC画面の目線の往復距離も最短に抑えられ、長い距離を右左右左キョロキョロキョロキョロして酔うこともない。

それから、あまり行儀は良くないが、食事しながら、本を読む時のページ押さえにも使用できる優れもの。

もちろんデザインも◎

005 Olympia タイプライター 西ドイツ製

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知り合いの自転車乗りに、欧州の古道具を輸入販売している仲間がいる。

彼に頼んでブリュッセルのアンティークマーケットで探して貰った一品。手書きした初稿を清書するのはコレ。

ハンチング帽から癖っ毛がはみ出す、ニコリともしない無愛想な親爺から買ったのだと言う。箱もつけてやると言うので、数年前に中身ごと買い取ったという倉庫にまで付いて行き、中のガラクタも見せてもらったらしい。

このタイプライターは、倉庫の奥で使われず、箱に梱包されたままだったとか。

おそらく、これを見つけた親爺は、箱にかぶった埃を、プゥーッと息で吹き払っただろう。そしてそれが、そのままこいつの「命の息吹」になったわけだ。

少々値段はしたが(高性能モバイルPCが軽く買える)それでも現役ならば致し方ない。

神戸市兵庫区にある専門業者で、筐体の磨き上げと、キータッチの調整に、更にフレンチのコースが食べられるくらいの費用がかかった。

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……。

そんなわけはない。

全て創作。嘘。

今回は冗談。

これはただのお話です。