私のデビュー作、「カメオ」の単行本が12/12、ついに刊行される。
大感謝。感無量。やはり小説を書いている者にとってデビュー作というのは特別で、それは死ぬまでついてまわる作品なのだ。ま、その作品が「カメオ」という変なタイトルなのだから、私らしいと言えば私らしい。
白い本が好きなので、私のリクエストで、白い本にしていただいた。
でも一番のリクエスト、いや、絶対に譲れないのは表紙の装画。そう、このウェイシュエンさんの、この犬の絵だ。表紙は絶対にこれにして欲しかったので、これでお願いした。
これは足掛け4年越しのウェイシュエンさんと私の約束だからだ。
文芸誌の「群像」に私のデビュー作として「カメオ」が掲載された時、扉絵として送られてきたのが、このウェイシュエンさんの犬の絵。
私は笑った。最高だと思ったから。私もはっきりと具現化できていないカメオがそこにいた。
カメオの可愛らしさも、奇妙さも、面白さも現れていると思った。
掲載されて、すぐに扉絵を選んでくれた装丁家の川名潤さんにお礼のメールを送った。この絵でとても面白そうに見えるからだ。実際、この扉絵で読もうと決めた人もいたようだ。なんだか小説とこの絵が合わさって、ようやく作品が成立するように感じるほどぴったりだと思った。
そうして私は、この絵を描いたウェイシュエンさんにメールを送った。ウェイシュエンさんも扉絵を喜んでくれていること、お互い犬を飼っていることなどを話した。そして私は、もし単行本化されたら、是非ウェイシュエンさんのこの絵を表紙に使わせてほしいと伝えた。
しかし「カメオ」は単行本にはならなかった。
群像新人文学賞優秀作。「本にするには分量が少ないので……」ということだったが、優秀作(佳作)だったということもあるだろう。その年の大賞は二作。本を出し、PRにはそれで十分だったのかも知れない。
すると、この本を出すのには、とにかく次を書いて、セット。いや、しかし併録だと「カメオ」を表紙にできるのだろうか……。とにかく次を書かないと、「カメオ」の書籍化もない。今はもう「カメオ」の書籍化のチャンスは逃した。だから次を書いて、いつかデビュー作にも興味を持ってもらえるようになるしかない。「カメオ」を単体にするならばそれしかない。
ウェイシュエンさんの表紙で「カメオ」を本にする。これはひとつの私の目標になった。発表時では書籍化できなかったが、もしかするともっと良いタイミングがあるのかも知れない。私は楽天家である。
しかしそこからが長かった。1年、2年、月日は経って私は藻搔いていた。アテはなかった。ただ山を舞台にした、ボツになった小説を性懲りも無く、編集者に相談もなく勝手に改稿し、改稿し、進めていた。
そんな折り、ウェイシュエンさんの個展が私の住む街、西宮市にやってくるという。行かねばならない。そう思った。……しかし正直アテはない。あの犬の絵で「カメオ」を本にする。その約束は難しいのかも知れない……。
でもとにかく私は家族を連れてウェイシュエンさんの個展に行った。
甲子園駅の近くのギャラリー。とてもかわいい個展を堪能させてもらい、そしてウェイシュエンさんと初対面。ご挨拶して、写真を撮らせていただいた。
ウェイシュエンさんが手にしているのが、「犬の絵」の原画。
ウェイシュエンさんは台湾ご出身で、日本に来てイラストレーターとして活躍されている方だ。
そして私は性懲りも無く、また言った。「いつかこの絵で「カメオ」を本にしますよ」と。
しかし、実はアテなど何もなかった。小説を書いてはいたが、私は二年近く何も発表していない。発表の見込みもなく、ただ山の小説を書いているだけだ。
「--今ね、山のお話しを書いてますから」痩せ我慢にそんなことを言った。「ウェイシュエンさんの絵で、カメオ書籍化する為の第一歩ですから」
道筋の見えないハッタリだったが、しかしそれでも私のひとつの目標だった。
そして私の書いていた「山のお話」は『バリ山行』になった。芥川賞の候補になって慌てて書籍化に動いたので、「カメオ」は併録されず、『バリ山行』単体でいうことになった。しかし、どこかで私はホッとしていた。
芥川賞の選考会で『バリ山行』が賞に選ばれて、私は講談社から、会見をする為に帝国ホテルに向った。
「行っといた方がいいですよ」
会場の裏手で出番を待っている間、そう言った群像の編集長と一緒にトイレに行った。一緒に歩きながら編集長が言った。「『カメオ』出せますよ」
−−やった。やった、ウェイシュエンさん。やったで。もちろん表紙はあの犬の絵だ。
私は芥川賞の会見の前、帝国ホテルのトイレで用を足しながら私はそう思った。
そうしてそれから約半年後、ついに本になった。ウェイシュエンさんの「犬の絵」で『カメオ』は本になった。やっとこれで私の『カメオ』が完成したのだ。
帯は新人賞の大恩人、町田康先生に書いていただいた。
皆さん、よろしくお願いします。
2024年12月12日頃より全国の書店さんに並びます。
松永K三蔵