創作秘話というのは面白い。そして第171回芥川賞受賞作の『バリ山行』にも創作秘話がある。まぁ、オープンにするのだから秘話ではないが、ウラ話。これもなかなか面白いと思う。
足掛け三年。途中ボツになりかけて、それこそ「山あり谷あり」で、特に校了前は怒涛の一週間で、まさにクライマックスに相応しい状況だった。それがなんとか掲載となり、約三年かけて、やっと受賞後第一作を発表できたことは、それだけでも感慨深い。
さて、群像WEB記事紹介。
こちらは「タイトル、なんて読むねん問題」。小説のタイトルが読めない、なんてことは問題だが、担当編集の方が「タイトルに引きがあっていい」と言ってくれていたので、私は別に何とも思っていなかった。「山行」というのは、登山アプリでも頻出するし、当たり前の言葉だと思っていた……。バリという言い方は一般的ではないだろうことは分かっていたが、掴みがるのでそういう使い方をした。「バリ山行」それはあくまで妻鹿が登山アプリに残していた、「造語」ということになる。
群像WEB記事①
「芥川賞受賞『バリ山行』、「タイトルどう読めばいいのかわからない」問題を、担当編集に直撃した」👇
https://gendai.media/articles/-/137705?imp=0
そんな私は2021年群像文学新人賞の優秀作(佳作)でデビューした。第64回、石沢麻依さんと島口大樹さんと同期だ。通常新人賞というのは一人、あるいは二人だ。三人というのは異例だろう。二人も受賞者がいれば十分だ。だから私は「次、頑張ってね」なんてことになってもおかしくなかったのだ。
石沢麻依さんは、ご存知の通りそのままデビュー作で芥川賞というスゴい方。島口大樹さんも芥川賞候補に野間新候補というスゴい経歴の持ち主。とにかくお二人とも、読めばスゴさがわかる。つまりは第64回は「死の組」だったわけだが、よく私、デビューできたよな……。
そんな過酷な選考の中で私を拾ってくださったのが町田康先生。評価の難しい、ようわからん私を残す為に随分頑張ってくださったらしい。町田先生、本当にありがとうございました。
群像WEB記事②
「編集者は「芥川賞作家」をどうやって発掘するのか? その「意外なプロセス」がめちゃおもしろかった…!」👇
https://gendai.media/articles/-/137708?imp=0
記事の中で担当編集の須田さんが言っている。
“「カメオ」は応募作ということを忘れるほど面白く読んだ作品でした。私は読んだ作品それぞれの感想と、5つ星の評価を記録しているのですが、当時のメモを見返しますと、「カメオ」にはめったにつけない満点の5つ星をつけていました。”
断っておくが、須田さんは甘くない。そんな須田さん五つ星作品『カメオ』、この度めでたく刊行です。ありがとうございます。2024年12月刊行です。★★★★★
「カメオ」に続く、『バリ山行』はボツの危機に、というのが次の記事。
群像WEB記事③
「えっ、そこまでやるの…?」芥川賞作品が「ブラッシュアップ」されるプロセスが凄まじかった…!👇
https://gendai.media/articles/-/137730?page=1&imp=0
やるんですよ。トコトンやるんですよ。正直途中ボツになった原稿でもそこそこ面白いとは、個人的には思う。ところがその私の限界を突破させてくれるのが編集者。そして今回は、産休から復帰した須田さんと中野さんの二人体制。私を入れて三人。まさにチーム。
校了までの残り数日。ギリギリまでみんなで意見を出し、お二人からはとても貴重なヒントをもらい、「いける」そう思った。中野さんは作品の肝となる主人公を私からうまく切り離すヒントをくれた。須田さんは目指すべき方角を明確に示す、まさに方位磁針のように原稿に的確にチェックをいれてくれた。「見えた!」作品がはっきりと見えた瞬間だった。あとは間に合うか。仮眠を挟みながら徹夜で原稿を進める。この時、私はなぜか異常な食欲になった。普段飲まないレッドブルをガブ飲みし、ラーメンからパン、お菓子までバクバク、いくら食べても腹が減って腹が減って仕方なかった。今、ここが自分の勝負時と肚を決め、とにかく書きまくった。(それにしてもあの異常な食欲はなんだったのか)
そうして書いた最終稿を読み、担当編集者の須田さんの「いける!」が出ることになる。
この編集者のプロフェッショナルな「いける!」の嗅覚は、経験とセンスなのだろう。この記事はそんな編集者の仕事の貴重な記録でもある。
ちなみに書く側の私のセンスはどうなっているのか? 私は常に「いける!」と考えているので、残念ながら、その嗅覚はマヒしてしまっているようだ。泣。
松永K三蔵