043 ウェイシュエンさんとの約束。『カメオ』12/12単行本発売。(お知らせ×日乗)

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私のデビュー作、「カメオ」の単行本が12/12、ついに刊行される。

大感謝。感無量。やはり小説を書いている者にとってデビュー作というのは特別で、それは死ぬまでついてまわる作品なのだ。ま、その作品が「カメオ」という変なタイトルなのだから、私らしいと言えば私らしい。

白い本が好きなので、私のリクエストで、白い本にしていただいた。

でも一番のリクエスト、いや、絶対に譲れないのは表紙の装画。そう、このウェイシュエンさんの、この犬の絵だ。表紙は絶対にこれにして欲しかったので、これでお願いした。

これは足掛け4年越しのウェイシュエンさんと私の約束だからだ。

文芸誌の「群像」に私のデビュー作として「カメオ」が掲載された時、扉絵として送られてきたのが、このウェイシュエンさんの犬の絵。

私は笑った。最高だと思ったから。私もはっきりと具現化できていないカメオがそこにいた。

カメオの可愛らしさも、奇妙さも、面白さも現れていると思った。

掲載されて、すぐに扉絵を選んでくれた装丁家の川名潤さんにお礼のメールを送った。この絵でとても面白そうに見えるからだ。実際、この扉絵で読もうと決めた人もいたようだ。なんだか小説とこの絵が合わさって、ようやく作品が成立するように感じるほどぴったりだと思った。

そうして私は、この絵を描いたウェイシュエンさんにメールを送った。ウェイシュエンさんも扉絵を喜んでくれていること、お互い犬を飼っていることなどを話した。そして私は、もし単行本化されたら、是非ウェイシュエンさんのこの絵を表紙に使わせてほしいと伝えた。

しかし「カメオ」は単行本にはならなかった。

群像新人文学賞優秀作。「本にするには分量が少ないので……」ということだったが、優秀作(佳作)だったということもあるだろう。その年の大賞は二作。本を出し、PRにはそれで十分だったのかも知れない。

すると、この本を出すのには、とにかく次を書いて、セット。いや、しかし併録だと「カメオ」を表紙にできるのだろうか……。とにかく次を書かないと、「カメオ」の書籍化もない。今はもう「カメオ」の書籍化のチャンスは逃した。だから次を書いて、いつかデビュー作にも興味を持ってもらえるようになるしかない。「カメオ」を単体にするならばそれしかない。

ウェイシュエンさんの表紙で「カメオ」を本にする。これはひとつの私の目標になった。発表時では書籍化できなかったが、もしかするともっと良いタイミングがあるのかも知れない。私は楽天家である。

しかしそこからが長かった。1年、2年、月日は経って私は藻搔いていた。アテはなかった。ただ山を舞台にした、ボツになった小説を性懲りも無く、編集者に相談もなく勝手に改稿し、改稿し、進めていた。

そんな折り、ウェイシュエンさんの個展が私の住む街、西宮市にやってくるという。行かねばならない。そう思った。……しかし正直アテはない。あの犬の絵で「カメオ」を本にする。その約束は難しいのかも知れない……。

でもとにかく私は家族を連れてウェイシュエンさんの個展に行った。

甲子園駅の近くのギャラリー。とてもかわいい個展を堪能させてもらい、そしてウェイシュエンさんと初対面。ご挨拶して、写真を撮らせていただいた。

ウェイシュエンさんが手にしているのが、「犬の絵」の原画。

2023年

ウェイシュエンさんは台湾ご出身で、日本に来てイラストレーターとして活躍されている方だ。

そして私は性懲りも無く、また言った。「いつかこの絵で「カメオ」を本にしますよ」と。

しかし、実はアテなど何もなかった。小説を書いてはいたが、私は二年近く何も発表していない。発表の見込みもなく、ただ山の小説を書いているだけだ。

「--今ね、山のお話しを書いてますから」痩せ我慢にそんなことを言った。「ウェイシュエンさんの絵で、カメオ書籍化する為の第一歩ですから」

道筋の見えないハッタリだったが、しかしそれでも私のひとつの目標だった。

そして私の書いていた「山のお話」は『バリ山行』になった。芥川賞の候補になって慌てて書籍化に動いたので、「カメオ」は併録されず、『バリ山行』単体でいうことになった。しかし、どこかで私はホッとしていた。

芥川賞の選考会で『バリ山行』が賞に選ばれて、私は講談社から、会見をする為に帝国ホテルに向った。

「行っといた方がいいですよ」

会場の裏手で出番を待っている間、そう言った群像の編集長と一緒にトイレに行った。一緒に歩きながら編集長が言った。「『カメオ』出せますよ」

−−やった。やった、ウェイシュエンさん。やったで。もちろん表紙はあの犬の絵だ。

私は芥川賞の会見の前、帝国ホテルのトイレで用を足しながら私はそう思った。

そうしてそれから約半年後、ついに本になった。ウェイシュエンさんの「犬の絵」で『カメオ』は本になった。やっとこれで私の『カメオ』が完成したのだ。

帯は新人賞の大恩人、町田康先生に書いていただいた。

皆さん、よろしくお願いします。

2024年12月12日頃より全国の書店さんに並びます。

松永K三蔵

038 『バリ山行』創作秘話、ウラ話。群像WEBの記事をご紹介。ほとんど私の筆歴のまとめ

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創作秘話というのは面白い。そして第171回芥川賞受賞作の『バリ山行』にも創作秘話がある。まぁ、オープンにするのだから秘話ではないが、ウラ話。これもなかなか面白いと思う。

足掛け三年。途中ボツになりかけて、それこそ「山あり谷あり」で、特に校了前は怒涛の一週間で、まさにクライマックスに相応しい状況だった。それがなんとか掲載となり、約三年かけて、やっと受賞後第一作を発表できたことは、それだけでも感慨深い。

さて、群像WEB記事紹介。

こちらは「タイトル、なんて読むねん問題」。小説のタイトルが読めない、なんてことは問題だが、担当編集の方が「タイトルに引きがあっていい」と言ってくれていたので、私は別に何とも思っていなかった。「山行」というのは、登山アプリでも頻出するし、当たり前の言葉だと思っていた……。バリという言い方は一般的ではないだろうことは分かっていたが、掴みがるのでそういう使い方をした。「バリ山行」それはあくまで妻鹿が登山アプリに残していた、「造語」ということになる。

群像WEB記事①

「芥川賞受賞『バリ山行』、「タイトルどう読めばいいのかわからない」問題を、担当編集に直撃した」👇

https://gendai.media/articles/-/137705?imp=0

そんな私は2021年群像文学新人賞の優秀作(佳作)でデビューした。第64回、石沢麻依さんと島口大樹さんと同期だ。通常新人賞というのは一人、あるいは二人だ。三人というのは異例だろう。二人も受賞者がいれば十分だ。だから私は「次、頑張ってね」なんてことになってもおかしくなかったのだ。

石沢麻依さんは、ご存知の通りそのままデビュー作で芥川賞というスゴい方。島口大樹さんも芥川賞候補に野間新候補というスゴい経歴の持ち主。とにかくお二人とも、読めばスゴさがわかる。つまりは第64回は「死の組」だったわけだが、よく私、デビューできたよな……。

そんな過酷な選考の中で私を拾ってくださったのが町田康先生。評価の難しい、ようわからん私を残す為に随分頑張ってくださったらしい。町田先生、本当にありがとうございました。

群像WEB記事

「編集者は「芥川賞作家」をどうやって発掘するのか? その「意外なプロセス」がめちゃおもしろかった…!」👇

https://gendai.media/articles/-/137708?imp=0

記事の中で担当編集の須田さんが言っている。

“「カメオ」は応募作ということを忘れるほど面白く読んだ作品でした。私は読んだ作品それぞれの感想と、5つ星の評価を記録しているのですが、当時のメモを見返しますと、「カメオ」にはめったにつけない満点の5つ星をつけていました。”

断っておくが、須田さんは甘くない。そんな須田さん五つ星作品『カメオ』、この度めでたく刊行です。ありがとうございます。2024年12月刊行です。★★★★★

「カメオ」に続く、『バリ山行』はボツの危機に、というのが次の記事。

群像WEB記事③

「えっ、そこまでやるの…?」芥川賞作品が「ブラッシュアップ」されるプロセスが凄まじかった…!👇

https://gendai.media/articles/-/137730?page=1&imp=0

やるんですよ。トコトンやるんですよ。正直途中ボツになった原稿でもそこそこ面白いとは、個人的には思う。ところがその私の限界を突破させてくれるのが編集者。そして今回は、産休から復帰した須田さんと中野さんの二人体制。私を入れて三人。まさにチーム。

校了までの残り数日。ギリギリまでみんなで意見を出し、お二人からはとても貴重なヒントをもらい、「いける」そう思った。中野さんは作品の肝となる主人公を私からうまく切り離すヒントをくれた。須田さんは目指すべき方角を明確に示す、まさに方位磁針のように原稿に的確にチェックをいれてくれた。「見えた!」作品がはっきりと見えた瞬間だった。あとは間に合うか。仮眠を挟みながら徹夜で原稿を進める。この時、私はなぜか異常な食欲になった。普段飲まないレッドブルをガブ飲みし、ラーメンからパン、お菓子までバクバク、いくら食べても腹が減って腹が減って仕方なかった。今、ここが自分の勝負時と肚を決め、とにかく書きまくった。(それにしてもあの異常な食欲はなんだったのか)

そうして書いた最終稿を読み、担当編集者の須田さんの「いける!」が出ることになる。

「いける!」の連鎖反応!

この編集者のプロフェッショナルな「いける!」の嗅覚は、経験とセンスなのだろう。この記事はそんな編集者の仕事の貴重な記録でもある。

ちなみに書く側の私のセンスはどうなっているのか? 私は常に「いける!」と考えているので、残念ながら、その嗅覚はマヒしてしまっているようだ。泣。

松永K三蔵

『群像』9月号に「松永K三蔵への15の問い」(インタビュー)を掲載いただきました。

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これは新人賞で同期の石沢麻依さんもされていた企画だけれど、すると比較対象が石沢さんってことになると結構辛いものがあるが、私はうまく答えられただろうか。15も問いかけていただき、ありがとうございます。

スカした顔をしているが、私はもっと緩い人間だ。

その石沢麻依さんの寄稿や、同じ大学出身の井戸川射子さんの創作。

今月も充実の内容の群像。

みなさん、どうぞよろしくお願いします!

松永K三蔵

『バリ山行』、単行本にしていただきました。

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感謝。『バリ山行』、本にしていただきました。

画像はAmazonさまより

ありがとうございます。

いい装丁。カッコよく、インパクトもあって、分け入るように奥深い。赤い線は、よく見ると破線もあり、山中を辿る軌跡になっている。グリーンの地形図は鉱物にも見えて綺麗だ。

ちょっと外国文学ぽい感じの装丁が、私はとても気に入っている。そして装丁は、あの川名潤さん。そりゃ間違いない。

グリーンと赤は今作のテーマで、以前紹介した掲載時の自作看板もそのカラーイメージ。山のグリーンと妻鹿さんの赤い汗止めバンド。

でもやっぱりこれじゃ安っぽい……。

当たり前だけど、やっぱりプロの仕事は凄い。

皆さんのお手元に早く届きますように。

純文学をどう読むか。文学性の解釈は人それぞれ。あーおもしろかったぁ。読んで、シンプルにそう思っていただければ幸せです。

オモロイ純文運動。

松永K三蔵

030 「バリ山行」試し読みweb公開【講談社 現代メディア】(お知らせ×日乗)

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「バリ山行」(群像3月号掲載)の試し読み記事をつくっていただきました。本日、講談社 現代メディアの群像で公開されました。ありがとうございます。

また勝手に描いた(非公認)

「バリ山行」の冒頭は X (旧Twitter)にページ画像で公開されていたので、今回の試し読みは、冒頭ではなく「バリ」が何かわかる序盤のハイライトシーン。私も好きなシーンだ。

読んでいただければわかるが、ここでMEGADETHが出でくる。え? メガデス?

わかる人は世代だろうか。そうだ、メタルBIG4の一角、メガデスだ。もっとも私はメタルと言えばPANTERA(パンテラ)一択なんだが--。長くなるので今、それは措く。

いや、敢えて措かずに繋げてみようか。

パンテラと言えばフロントマンはVoのP・アンセルモ。初期のロングモヒカン片流れスタイルからスキンヘッドにし、それは伝説的なギタリストD・ダレルの赤髭とともにパンテラのアイコンとなった。

そしてスキンヘッドと言えば、「バリ山行」の執筆中、ずっと私の意識にあったのは、F・コッポラの映画『Apocalypse Now(邦題:地獄の黙示録)』の、マーロン・ブランド演じるカーツ大佐だ。つまりコンラッドの『闇の奥』のクルツ。

密林の中、川を遡り、その先に超然と存在するもの。

理解や共感を拒み、ただひとり、道を外れて突き進む。薮を漕ぎ、枝を潜り、岩を越えて流れに足を入れ、山を歩く。その先に何を見るのだろう。そんなことを考えながら書いた。

そんな小説。

皆さん、どうぞ「試し読み」をお楽しみくださいませ。

↓↓↓

イッキ読み必至!先行の見えない世の中において、確かなものとはどこにあるのか…?
不安定な現代社会を鋭く描く、新たな山岳小説
https://gendai.media/articles/-/125615
4月4日(木)公開。

027 「バリ山行」が掲載される前日、ちょっとAIに尋いてみた。

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という訳で、2月7日、群像3月号が発売されて「バリ山行」が発表になった。その前日、ちょっと事件があった。

宣伝 看板(自主制作)

「山行」。登山に馴染みのない人はあまり聞き慣れない言葉だと思うけれど、これは「さんこう」と読む。

じゃあ、バリってなんだよ? という人は作品を読んでみてください。因みにバリ島の話ではないことは、先に断っておく。

ここ最近、九段さん(おめでとうございます!)の芥川賞受賞作『東京都同情塔』でAIが話題だが、私も創作のための調べごとにchatGPT-4を使ったこともある。ネット検索よりピンポイントに、あるいはニュアンスの幅をもって答えてくれるので非常に助かる。

そんなことで2月6日、「群像3月号」の発売日前日、雑誌の目次も公開されたことだし、ちょっとbingのコーパイロット(chatGPT4)に自分のこと尋いてみた。

松永K三蔵。いきなり、代表作は「バリ山行」と出た。情報が早い。代表作か、そうかぁ、そうなれば私も嬉しい。しかしまだ二作しかないから、それも間違いではない。

すると「松永K三蔵の作品を読んだことありますか?」というAIへの質問候補が下に出た。そうか、AIだから読めるのか。

押してみる。

すると、AIは「読んだことがある」と言う。そして「バリ山行」がとても好きだと。

え? あ、いや、まだ発売前なんですけど……

そうして出たアンサーが下だ。そのまま貼り付けておく。

もう私はAIを信用できない。

少なくとも今のところは、まだまだ発展途上のようだ。

これ「バリ山行」ってタイトルからのあなたの勝手な想像ですよね? テキトー過ぎでしょ!

バリ島なんて一切出てこないし、恋愛も出て来ない。ウソばっかじゃないですか、AIさん! 😊、じゃないですよ。全然、信用できないですよ!

ウソばかり? 信用ならない。

あぁ、なるほど。AIと小説にはやはり親和性があるようだ。

ということで、だから「バリ」ってなん何だよ? って人は下の自主制作のCMをどうぞ。

「バリ山行」自主制作CM

でもやっぱり、読まないとわからないようなので、よろしくどうぞ。

松永K三蔵

創作「バリ山行」を群像(2024年3月号)に掲載していただきました。

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中編小説「バリ山行」を群像3月号に掲載していただいた。

デビュー作の「カメオ」(群像新人文学賞優秀賞)に続く二作目。所謂、受賞後第一作だが、あれから月日は流れた。もちろんこればかりを書いていたわけではないが、この作品は、山をテーマに長編三本を書いて、混ぜて煮詰めて絞り出して、やっと出来た。ようやく機会が巡ってきて、この度発表。

宣伝 看板(自主制作)

山の話だが、これはいわゆる山岳小説ではない。お仕事小説だろうか。わからない。が、「なぜ山に登るのか?」という例の問いはちゃんとある。

私がひとりで展開する「オモロイ純文」運動の嚆矢に相応しい作品となった。つまりオモロイのだ。

しかし、せっかくのオモロイ純文も読まれなければ意味が無い。宣伝、宣伝、宣伝。ということでCMを作った。

編集部が噛んでないので非公式だが、自分で作っておいて非公式というのもおかしいので、「自主制作」というのが適当だろうか。

「バリ山行」自主制作CM

そんなことより原稿を書けと怒られそうだが、これはアプリでかなり簡単に作ることが出来る。風呂に入ってる間にだいたい作られたほど簡単。手がかかったのは、久しぶりにギターを引っ張り出して効果音を入れたことぐらいだ。

ということで、みなさん『群像』を(できれば)本屋さんで買って読んでくださいね。

松永K三蔵

群像の連載リレー書評「文一の本棚」の第四回を担当させて頂きました。(群像2023年10月号)

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きれいな表紙の10月号

群像2023年6月号からはじまった連載書評「文一の本棚」

これは講談社の文一こと講談社文芸第一(単行本はもちろん、読者家諸氏を唸らせる、あの「講談社文芸文庫」を出している)そんな文一から出た本の中から、その回を担当する書き手が思い入れのある一冊を選んで書評エッセイを書く、というおもしろい趣向のリレー連載。

前回は永井みみさんが村上龍さんの『コインロッカー・ベイビーズ』を選んでおられた。

ということで私が選んだのは

講談社文芸文庫 道籏泰三さん編の「昭和期デカダン短篇集」

これはアンソロジーで、道籏先生が「デカダン文学」と睨んだ、短編13篇を収める。

葉山嘉樹、宮嶋資夫、坂口安吾、太宰治、田中英光、織田作之助、島尾敏雄、三島由紀夫、野坂昭如、中上健次。

所謂デカダン作家ばかり、ではないこのチョイスがおもしろく、またいずれも私が心惹かれる作家なのだ。道籏先生と言えば、先日、ついに岩波文庫から出た「中上健次短篇集」を編まれておられた。

私などが書評とは、全くもって僭越の極みだけれど、半分はエッセイなので、みなさん、読みものとして気楽に読んでくだい。

010 純文学新人賞おぼえ書き①

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2021年6月にデビューして約半年。コロナで受賞式も無く、地方在住の私は講談社にもまだ行ってない。相変わらず出勤前にカフェに行き、書き、その日の集中力を七割がた使い果たしてのろのろと仕事場に行く。休みの日は、家族が起きてくる前にやっぱりカフェに行って、書き、のろのろと自宅に戻ってくる。このループ。

あれ? これデビュー前と変わってなくないか? ま、賞を貰ったことで、一応、妻から一定の理解は得た。これまでは妻の中では、毎朝、ボンクラ夫が朝早く家を出ていき、カフェでひとり妄想をして、書いている。休日も。フルタイムワーカーの妻からすると、頼むから、どうせなら資格の勉強でもしてくれ、と思っていただろう。小説。そんな全く生活の足しにもならないことを。延々。しかも怪しい。ちょっと恥ずかしい。(因みに妻は過去わたしの作品を一作読んだきりだ)一度ご近所さんにも訊かれたらしい。毎朝、どこか行かれてるんですか?

困った妻はそのまま「カ、カフェに」と答えたそうだ。それは答えになっておらぬだろうが、ともかくご近所さんは「カフェ!」と驚嘆の声をあげという。妻にしたら何とも気恥ずかしい思いをしたに違いない。

兎にも角にも、私が新人賞を頂いて、妻は、はじめて『群像』なるものをググり、「ふーん」となって、「で、原稿料は? 印税は?」と。   ま、それはちょっと待ってくれ。それはいろんな事情があるのだ。それでも執筆時間に関しては、これまで私が休みの日に朝、夕方と書きに出ると、ダブルだ! 許せぬと言って怒ったが、そのあたりは「投資」だと思い寛容に見てくれるようになった。

ということで、ずいぶん前置きが長くなったが今回はキャッチーなタイトル。たぶん今、私が書くべきこと(求められるもの)は、気の利いたエセーなんかよりも、このあたりのことだろうか? 文学新人賞。

今更だが、純文学の新人賞には五大文芸誌があり、それぞれ新人賞がある。あと筑摩書房の太宰治賞もある。どれも年一回。(いつの間にか『文學界』も年一回になってた)

最初に断っておかねばならないことは、出版社に問い合わせても教えてくれないことは、私に訊かれても、仮に知っていたとしても、口外出来ないってことだ。そのあたりは理解して欲しい。

いや、そもそも私はマニアじゃないからあんまり知らない。なので、新人賞について書くと言っても個人的な思い出とか投稿スタイルぐらいで、小説家志望の人にはあまり役には立たないかも知れないが、読んでくれれば、あー、あるある、なんて共感いただけるだろう。

私は三年ほど前からようやく実生活のサバイバルに小安を得て(そのことはいずれ作品で←オモロイ)、創作に集中できる環境になった。それまでももちろん創作は続けていたが、ランダムで、出来上がったらポツリポツリと文芸誌の新人賞に投稿していた。もちろん毎回じゃない。

でも、もし新人賞を取ってデビューしたならコンスタントに量産しなくちゃならんよな、ということで、ここはひとつ勝手にプロになったつもりで、新人賞の締切を原稿の締切に見立てて書く生活を試みた。一種のロールプレイング。原稿の締切は絶対なのだ。

一年のサイクル。最初は、3月末の三誌、『新潮』『すばる』『文藝』。全部は無理だから文庫で一番馴染みのある『新潮』にした。あと9月末は『文學界』、10月末は『群像』、太宰賞が12月にある。それを軸に一年を過ごす。

ほとんど前置きになってしまったが、長いから、次回。

次回はそのサイクル。   つづく!